海外なら、訴訟リスクは常にある
一戸建てやマンションやアパートでも、どのような家に住んでも、扉と窓には鍵・天井には火災報知器・ベランダには避難はしごがあるというのは当たり前のことである。治安が良くて、日本はとても安全な国であり、火災や強盗のリスクは割と少ないのに対して、そうした安全装置を設置しないことは考えられない。しかし、考えてみると、火災を行うリスクは高いと思っているから火災報知器や避難はしごを設置するわけではなく、万が一、火災があった場合、命を失うリスクが高いというわけで安全措置を設置している。
つまり、「行うリスク」は非常に低いとしても、「失うリスク」が高いと思われているため、それを防ぐための措置を設置することは正常である。実は、安全措置を設置しないと、非常に高いリスクを負っているように見えるのではないでしょうか。
日常生活と同じく、通常の業務においても、企業は売上減少・顧客や市場占有率の失い・コスト上昇等というビジネスリスクは様々ある。しかしながら、海外で事業を行っている日本企業は、通常の業務においても、訴訟リスクにも直面している。日本国内でも、企業と企業との間の紛争は出てくる場合もあるが、どのような紛争があっても、ほとんどいつもの場合、先方と話し合ったりして、交渉で解決されている。訴訟で解決されるケースは極めて少ない。それは日本のビジネス文化だ。
残念ながら、海外なら(特に米国・カナダ・ヨーロッパ)、日本と違って、割と簡単な紛争があった場合でも、訴訟で解決することは通常である、というビジネス分化がある。その理由で、海外の取引先との契約上の紛争があった場合、交渉しようとするとしても、もし先方が無理な請求をしたりすると、そうした請求を受け入れて解決するか、訴訟で戦って解決するか、という2つの選択肢しかない。つまり、日本企業として、海外で事業を行っていると、訴訟を提起することはしないという方針があったとしても、少なくとも、何も悪いことはやっていないとしても、訴えられる可能性は常にあるとのことを納得する必要がある。
尚、訴訟を行うリスクは低いと思ったとしても、弁護士代はもちろんあるが、それよりも、証拠を収集したり、資料をコピーしたりという社内作業もあり、且つ、海外訴訟なら、資料翻訳代もあるので、訴訟の内容は割と簡単であったとしても、訴訟を守備するためのコストは非常に高い場合はよくある。
従って、海外で事業とする日本企業としては、訴えられるリスクは低くても(つまり、行うリスクは低い)、守備のためのコストだけを考えると、火災と同じく、「失うリスク」は非常に高いので、企業を守るための手段をとる必要がある。 そのため、万が一、訴えられた場合、家の鍵や火災報知器と同じく、企業を守るため、次の「安全措置」を導入するべきと思います。一方、訴訟のための準備(「訴訟プランニング」という)はしないと、上手く解決する可能性は極めて低い。
1.自社の訴訟リスクを理解する
訴訟プランニングのステップ1としては、自社の事業の内容を法的な観点から分析して、どのような紛争はあり得ることを想定する。例えば、海外で販売する製品のメーカの場合、メーカとしての黙示の保証や明示的な保証についての責任を持つ可能性が高い。又は、メーカとしての保証責任の具体的な内容は国によって違う場合はよくあるので、どのような責任があると理解するため、取引相手の国のメーカ保証についての法律を検討する必要がある。
尚、事業内容によるが、企業に適用される法的概念は様々あるので、自社は多様な法的リスクを同時に持つ可能性は充分ある。従って、すべてのリスクを理解するため、相手の国の契約・財産・知的財産・過失・製品欠陥・保険・輸入等についての法的概念を検討して、理解する必要がある。
次、自社に適用される法的概念は分かれば、それぞれの法的リスクに対して、契約相手のか、製品の最終使用者のか、政府機関のか、その他の第三者のか、誰に訴えられることを想定する。そして、それぞれの想定される原告に対して、いくらまで請求できることを計算する。例えば、服を製造と販売する会社の場合、製造上の欠陥があったとしても、その欠陥による人身傷害が発生する可能性はゼロに近い。そうした会社の場合、製造上の欠陥についての訴訟リスクはあるが、最終使用社に訴えられたとしても、請求される金額は当該服の交換費用に制限される可能性が高い。その場合、その会社の実際の訴訟リスクは低くて、対策する必要はないと結論する可能性はある。一方、人身傷害リスクが高い建設機械を製造する会社の場合、訴訟リスクに対する対策方法を考えるべきかも知れない。
2.対策方法を検討
メーカは最終使用者からの訴訟リスクは常にあると思うが、多くのグローバル化とする日本企業としては、最も大きな訴訟リスクは海外の契約相手になると思う。つまり、どのような取引をしているとしても、契約相手との契約上の紛争は発生される可能性は常にある。その理由で、契約を「訴訟企画」として扱うことは最も重要な対策方法である。
海外なら(特に米国とカナダとヨーロッパ)、日本と大きく違って、一般的な原則として、契約書は、両当事者のお互いの権利と義務を明確にするための資料よりも、訴訟の企画のための資料のように見られている。なぜかというと、海外なら、多くの場合、 契約書は弁護士に作成されており、海外では訴訟はよく行っているため、海外の弁護士が契約書に関する訴訟は発生されると常に想定している。従って、契約書を作成するとき、海外の弁護士はどのような訴訟リスクがあることを分析して、自分の依頼人に有利な条件を入れている。つまり、海外の先方から契約書のドラフトを貰ったら、紛争があった場合、先方は同紛争を勝利するための条件はある可能性が非常に高い。
海外において事業をしている日本の企業としては、海外の取引先との契約書の最も重要な役割は、紛争があった場合、どちらの当事者は同紛争を勝利することを決定する、ということを理解して、納得することはとても重要である。且つ、海外の取引先との同じく、契約書の作成や訴訟プランニングに関して、弁護士に相談することもとても重要である。しかし、海外取引と海外訴訟や紛争解決は非常に複雑であるため、国際法や国際取引に関する経験と知識のある弁護士に相談するべき。
3.権利を強制する覚悟が必要
海外に事業を展開している日本企業は、取引先との紛争があった場合、交渉等で解決できない場合、自社の権利を訴訟で強制する覚悟が必要である。事前に言ったように、海外なら、特に米国とカナダとヨーロッパでは、企業と企業との間の紛争を訴訟で解決することは割と正常である。話し合ったり、交渉したり、妥協したりすることはもちろんあるが、例えば、契約書の意味合いは曖昧であり、想像外の問題が発生した場合等、契約書の意味の解釈等を裁判官に任せる場合もよくある。一つの当事者はずるくしているというわけで、訴訟で権利を強制しないといけない場合もあるが、契約書の条件の意味は曖昧過ぎて、取引は進めないということで、取引はうまく進めるように、意味の解釈を第三者に任せる必要がある場合もある。つまり、海外なら、訴訟という言葉はいつも悪い意味があるわけではない。
尚且つ、もし先方が何を請求しても、契約上の約束の全てを完全に無視したとしても、日本の相手は絶対に訴訟を提起しないと思ったら、無理な請求や契約上の義務の無視等をやり続ける可能性が非常に高い。その場合、交渉した内容や契約上の権利と先方の義務の意味は完全になくなり、そして先方は、ある意味で、新しい契約を勝手に作ったりすることはできる。紛争があった場合、話し合ったり、交渉したりすることはとても良いですが、先方は絶対に超えるのは許さない線を引く必要がある。先方が同線を越えた場合、訴訟を提起する必要がある。
且つ、自社は必要に応じて訴訟を起こすという会社ですよ、ということを先方に伝える必要がある。やはり、それを直接に言うの不要ですが、何等かの方法で、先方がある線を越えたら、訴えられる可能性があるとのことを理解すると、取引は契約通りに行う可能性は高くなる。多くの場合、紛争が発生したら、自社の紛争についての気持ちや考え方を説明するためのレターを弁護士(特に、訴訟専門家の弁護士)から送れば、先方が「訴訟は可能」とのことを理解するべき。
4.権利強制の企画を準備する
交渉(negotiation)・調停(mediation)・仲裁(arbitration)・訴訟(lawsuit)という一般的な紛争解決方法がある。それぞれの方法はメリットとデメリットがあるので、(例えば、交渉は最も早いが、先方は交渉したくないなら、解決できない・調停の場合、両当事者は調停で解決したくない限り、調停するのは意味ない場合は多い・仲裁は訴訟より早くて、コストは低いとよく言われているが、必要な証拠が多い場合、コストが高くても、訴訟の方が有利の場合もある)、自社の場合、どちらの方法が最も良いと決定するために、それぞれの方法を深くに分析する必要がある。
そして、どの形で自社の権利を強制することと共に、調停や仲裁や訴訟はどの国や管轄で行いたいということも決定する必要がある。日本の企業として、やはり、管轄として、日本は一番便利である。それはそうですが、海外の会社(とその会社の弁護士)はそれに対して異議する可能性が高い。そのため、国際取引の場合、ニューヨーク市やロンドンやパリという第三管轄を選択するケースは多い。
5.証拠についての企画も必須
法的権利と同権利の強制企画を持つことは良いであるが、同権利や主張を証明するための証拠がないと同権利と企画を持つことは意味ない。つまり、権利を強制するため、証拠は必要であり、且つ、多くの場合、先方が言ったことを証する書面は最も有効な証拠である。従って、全ての取引や交渉や折衝等は、可能な限り、書面で行うべき。ウエブ会議や電話で話す場合でも、直ちに話の内容を確認するためのメモを書いて、メールで先方に送るべき。そして、必要に応じて、全ての電子資料でも、紙の資料でも、すぐに見つけれるように、全ての証拠を整理して、保管する必要がある。
証拠を管理することに加えて、「証拠をわざと作る」必要がある場合もある。つまり、先方との紛争が発生した場合、若しくは紛争になりそうという状況があった場合、会社を守るために会社についての有利な証拠(エビデンス)を作っておこうという話は時々出てくる。しかしながら、自社に有利な証拠を作るため、もし法的紛争や訴訟があった場合、同証拠は訴訟の中でどのような役割がある、やどのように使えるとのことを理解していない限り、逆に危険な証拠を作ってしまう可能性が非常に高い。
例えば、日本の国際建築会社で働いたとき、毎回紛争があった場合、「エビデンスを作るべきため、先方に会社の立場を説明するレターを書こう」と皆さんが言った。皆さんが、会社に有利な証拠を作るのは大事と思っていたが、どういう証拠や何のための証拠を作るべきについての話は一切なかった。実は、証拠は「ある事実の存在を証明するために使用する」という役割がある。従って、証拠を作るために、まずは、どの事実は存在していることを先に決定しないといけない。そうしないと、証拠を作ることは意味ない。
また、訴訟の中で、どの事実を証明したいというのは弁護士しかしらない(特に訴訟専門家)ため、一般人は証拠を作ることは逆に危険である。例えば、契約書の中で、先方の支払いは請求書の30日後以内で行わないといけないという条件があるのに、「今月、キャッシュフローの問題があるため、来月末まで待ってもらいますか?」という連絡が先方から来た。今回だけでいいかな、という判断があったので、許してあげるが、今回は特別対応ですよ、とのエビデンスを残しておくために、「今回は特別対応です」とのレターを先方に送った。
しかしながら、先方の国の契約法の中には、一回だけ条件に従わないと、その条件は永久に放棄されるように見なさせるというルールがある場合、特別対応と言ったとしても、来月でいいですよ、と言ったから、契約書の支払い条件は放棄された、という解釈は全然あり得る。従って、自社の契約上の権利を守るため、「今回はいいですが、自社は契約上の権利を放棄するつもりは一切ない」という文章も入れる必要がある。
つまり、証拠を作る必要があると思う場合、それを国際弁護士に任せる方が安全である。
まとめ
日本の家に火災通報装置はなかった時代があった(そして、それほど昔ではなかった)ものの、現在では、そうした簡単な安全措置が日本人の生活の中で当たり前の中で、当たり前のことになった。グローバル化とする日本企業にとって、上記の訴訟プランニングについての手段は業務の通常の部分にならなければならないと思います。そうしたグローバル企業の安全措置を設置しないことは、海外ではリスクが大き過ぎると思います。
以上